研鑽のタネ-描画による評価と半側空間無視の関係-
こんにちは。
「中堅理学療法士による北海道神経理学療法研究会」
代表を務めさせていただいている小野圭介です。
今回は,自己を研鑽する元となる「研鑽のタネ」シリーズ第一弾をお送りしたいと思います。
テーマは「描画による評価と半側空間無視の関係」です。
STとの関わりから感じた疑問
今回のきっかけは、STに対して半側空間無視に関する研修を行っている時でした。STからの疑問は「なぜ描画でも無視するんですかね。」でした。
「・・・ん?」である。
私は理学療法士として臨床において描画と模写の違いについて考えたことはありませんでした。他職種からはまた違った視点での臨床がみえてきます。
描画試験:描くものを口頭で指示しその指示したものを図示してもらう。
模写試験:手本を提示して、それを描き写してもらう。
どちらもBIT行動性無視検査に通常検査として含まれている試験ですが、臨床での表出としては似て非になるものではないでしょうか。
空間性注意に関わる神経ネットワークとして背背側経路、背側経路、腹側経路が報告されています。これは視覚情報処理経路としても同様で考えられると思います。
視覚情報に関して模写試験においては目の前に手本があることに対して左側を無視してしまうのは理解できるのですが、描画は頭の中で描くものをイメージしています。手本がない以上その点で視覚情報から処理過程で無視が生じるのは考えにくくありませんか?
様々な仮説を考えました。
例えば「想起」という観点です。指示されたものを想起する場合の神経ネットワークとの関連を考えました。想起は海馬や前頭前野との関連があります。腹側経路においても海馬傍回が重要となっています。仮に描画試験はその物体をイメージする過程での無視を表していたとしたら「描画試験は腹側経路を示す評価」となり得るのではないかと考えました。
また、自己身体を図示した際に手を大きく書いてしまうなど身体表象との関連も考えられるのではないかと研究会役員からの意見もありました。
その他にも注意の分配においてはワーキングメモリにおける分散を抑制(集中する)という観点も考えたりしたのですがいずれも矛盾が生じ明確な答えには至っておりません。
あくまで図示する前の神経ネットワークは関係なく図示している動作の中での無視かもしれません。物体をイメージするといった陳述記憶に関わる部分での問題であれば「受動性注意」が主に関わり、図示している動作の中での問題では「能動性注意」が主に関わる可能性が考えられ臨床的な判断は大きく変わってくると思います。
我々臨床家が研鑽をする上で重要なことは、何らかの理論を証明するのではなく「日々感じる疑問」や「何となく沸いてきたアイデア」を先行知見の整理もふまえながら症状が良くなる可能性があるものであれば臨床にどんどん応用し評価を繰り返していくことだと思います。
研鑽は常に臨床応用
研鑽は常に臨床応用です。
背側経路(能動性注意)を中心とした無視を呈しなおかつ視覚的座標の依存性が高く(あの壁のシミが目印なのといった発言など)座位保持が困難な症例において、仮に描画試験が腹側経路(受動性意)に重み付けしている場合、本症例においては残存機能としても捉えられます。そう捉えた場合、理学療法では視覚情報を抑制し体性感覚でのFB機構を賦活し座位保持の安定化が進むことと描画試験での描画変化がリンクする可能性があるのではと考えながら他職種の評価との連携を図って検証していけば何か臨床的有用性が見つけられるかもしれません。
見つけられないかもしれません。
しかし、日々押し寄せる業務の波の中「日々感じる疑問」も一緒に流されないようにしていく。何を勉強したら良いか分からないと感じているような方は日々の臨床場面を大事にすることでそのような悩みから解放されるのではないでしょうか。
答えがあるわけでも、理路整然とした関連を示すなどにも至らない、あまり思考を整理しない中での「研鑽のタネ」を今回お送りさせていただきました。
日々忙しくて勉強する時間がとれない。そんな時が逆に自己研鑽するチャンスぜよ。
以上です。ありがとうございました。